記事の内容
近年よく耳にする「サブスク」とは?
近年、音楽配信や動画配信、車や家具や電子書籍などさまざまな分野でサブスク方式のサービスが登場しています。サブスクは「予約購読」「定期購読」といった意味を持つ「サブスクリプション」の略で、利用料を支払うことで一定期間に渡ってサービスを利用する権利を得ることができます。
メリットは、
- 利用頻度が高ければ高いほどお得
- 新たなコンテンツを発見しやすい
- 登録・解約の自由度が高い
デメリットは、
- 利用しなくても費用が発生
- 不要なコンテンツが含まれている場合がある
以上のことから、スポーツクラブの「会費制」もサブスクとほぼイコールと捉えることができます。
総務省による日本標準産業分類では、スポーツクラブ(=フィットネスクラブ)は、「室内プール、トレーニングジム、スタジオなどの運動施設を有し、会員に提供する事業所」と定義されています。国内企業系ではコナミスポーツクラブ、セントラルスポーツ、ルネサンス、ティップネス、外資系ではゴールドジムなどが大手クラブと目されています(月会費10,000円~14,000円程度)。
今回のコラムでは、都内の大手スポーツクラブに20年通い続け、週に3~4回のトレーニングとその後のビールがやめられない筆者が、ビジネスモデルと共にその未来を考えてみたいと思います。
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大手クラブのSWOT分析
SWOT分析とは、企業の内部環境と外部環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素で整理して分析する方法です。
大手スポーツクラブのSWOT分析
内部環境から強みと弱みを、外部環境から機会と脅威を抽出
大手スポーツクラブの過去、現在
筆者が入会した20年前から10年ほど前にかけて、大手クラブではマーシャル(格闘技)系、エアロビクスやステップ、アクアビクスといった有酸素系、ヨガやピラティスといった調整系などバラエティに富んだエクササイズプログラム(レッスン)が毎日豊富に提供されていました。午前から夕方にかけては主にシニア層、夕方以降は主に仕事帰りの社会人でスタジオはもちろんトレーニングスペースも大いに賑わっていました。
10年ほど前から、「仕事帰りにジムに通いたい若年層」をターゲットとしたエニタイムフィットネスや、「中高年主婦」をターゲットとしたカーブスのように、ターゲットを絞りプールを排除し比較的狭い敷地にウェイトレーニングやランニング用のマシーンだけを設置するフィットネスクラブが増えてきました。健康意識の高まりを背景に初期投資とランニングコストのいずれも大幅に削減し、スポーツクラブだけに「(無駄をなくした)筋肉質なビジネスモデル」が急成長してきたのです。最近ではコンビニジムを謳う「チョコザップ」も全国に300店以上と大幅に店舗数を伸ばしています(2023年2月現在)。
主なスポーツクラブのポジショニングマップ
小規模ジム(月会費3,278円~10,000円程度)が台頭するようになった頃から、会員減による収入減に備えるためか大手クラブでは経費削減策が目に付くようになります。
筆者の通うクラブでは、休館日が月2日から週1日に増え、閉店間際までびっしりと提供されていたスタジオレッスンが、エアロビクスやステップなどフリーランスのインストラクターが担当しクラブ側にとって費用が発生するレッスンを中心に減り始めました。また、トレーニングジム内を巡回するスタッフ数が明らかに減り、ベンチプレスなどのフリーウェイトトレーニングの補助サービスもなくなりました。ランニングマシーンやバイクに設置されたテレビ用のヘッドホンとヘッドホンカバーの貸し出しがなくなり、スタッフが引率し共通のスポーツ愛好者がジム外で集まる(フットサルサークルやキャッチボールサークルといった)サークル活動も廃止されました。
一方で、新市場開拓戦略(既存の施設を新しい顧客層に展開し、売上向上を目指す)として、キッズスクールが開設され、一部直営店舗では24時間営業が始まりました。また、新製品開発戦略(既存市場に新製品を投入)として、ダンス系レッスンやオンラインレッスンが始まりました。
アマゾフの成長マトリックス
事業の成長・拡大を図る際の企業の成長戦略をシンプルに表現したマトリックス
これらの施策を講じたものの、小規模ジムの台頭や、新型コロナウイルスの蔓延による集客減、水道光熱費の高騰などによって収支の改善がみられなかったのか、これまで無料で提供されていたスタジオレッスンの一部が有料化されました。スタジオレッスン有料化とともに月会費を値下げし、ジレットモデル(製品の本体を無料、または低価格で提供し、消耗品の付属品を継続的に販売して利益を維持するビジネスモデル)への転換を図ったわけではなく、月会費(据え置き)+都度払いの事実上の値上げに舵をきった格好となり、会費制=サブスク(メリット①)の根底が揺らぐ結果となりました。 クラブ側としては、会員の2割を占めると言われる「幽霊会員(会費を支払うもののほとんど施設を利用しない会員)」の月会費(デメリット①)は貴重な収入源であり、値下げするわけにはいかないのでしょう。
大手スポーツクラブの未来
小規模ジムの台頭、水道光熱費の高騰、新型コロナによる退会、新規集客減という逆風の中、大手クラブは新たな収入源に向けてどのように施策を講じ、魅力を発信すれば良いのでしょうか。
「誰に」「何を」「どのように」の観点で提案します。
【その①】スタジオでオンラインレッスン実施
「コミュニティの場やサードプレイスとしてジムに通う会員に」「レッスンを」「スタジオでのオンラインで」
オンラインレッスンは、自宅にいながらにして
- ストレッチ
- ヨガ
- コアフェイストレーニング
- バレエ
- 筋トレ
- ダンス
など豊富なレッスンを受講することができます。
反面、参加者同士の一体感、達成感といったグループレッスンの醍醐味を味わうことはできません。
スポーツクラブは、シニアにとってはコミュニティの場であり、社会人にとってはサードプレイス(家庭でも職場でもなく居心地の良い場所)であり、仲間に会うために通うことが最初の目的と言っても過言ではありません。余計なものをそぎ落とした小規模クラブではなく、会費が高くても大手クラブを選んでいる会員にとっては、スタジオレッスンの充実度は必須です。大きな動きを必要とするエアロビクスやステップのような有酸素運動も、スタジオで大型スクリーンを使ったオンラインであれば自宅での受講のようにスペースや音に気にすることなく楽しめます。クラブ側としては複数店舗同時にレッスンしたり、時間差で配信したりすることで費用を抑えることができ、スケジュール数の減少や有料化に歯止めをかけ、既存顧客満足度を高めることができるはずです。
【その②】クラブ内に「鍼灸接骨院」誘致
「身体に痛みや違和感のあるシニア会員に」「治療法を熟知した専門家による日常生活でのケガの改善や予防法指導を」「ジムでの運動療法を含めてアドバイス」
運動する際に身体に痛みや違和感がある会員向けに、クラブ内に「鍼灸接骨院」を誘致し、治療はもとより関節可動域回復、歩行練習(ウォーキング)、筋力増量に繋がるアドバイスを行うことができます。主にシニア向けの関連多角化で、治療や機能改善、運動、入浴をワンストップで提供することで、トレーニング以外でもクラブに足を運ぶきっかけになります。
【その③】永年継続会員にクラブ内の「マッサージ、トレーニング利用券」贈呈
「長年クラブを利用している会員に」「マッサージ、パーソナルトレーニング利用券などを」「日頃の感謝を込めて」
長い期間ひとつの企業に勤めて貢献してくれた社員に対して、これまでの功績やがんばりを称え、感謝の気持ちを伝える永年勤続表彰のように、クラブの永年継続会員向けに普段有料のマッサージやパーソナルトレーニングの利用券を贈呈することも効果的です。ノベルティグッズや栄養ドリンクや物販の割引券などの贈呈でも構いませんが(モノ消費)、会員がこれまで利用に二の足を踏んでいたサービスの利用券を配付し、実体験(コト消費)してもらい効果を知ってもらうことで「リピーター」利用が狙えます。
新規顧客を集めることも大切ですが、既存顧客にクラブの「ファン」になってもらい長い期間使ってもらうことも同じように大切です。
小規模クラブに比べて、大手クラブは資産(人・モノ・カネ・情報・ノウハウ)が強烈に強いはずです。
④~⑥は、この強みを活かした内容になります。
【その④】ターゲットを絞ったスタジオレッスン実施
「体験談、成功談を聞きたい会員に」「専門的または差別化したレッスンを」「スタジオでのオンラインまたはオフラインで」
英語の話せるスタッフによる
- 外国人向け「(指示出しが)英語によるレッスン」(外国人の集客に繋がる)
大学陸上競技部出身社員による
- ラン愛好者向け「もっと楽に走れるコツ」
ボディビル・フィジーク出場者による
- 筋トレ愛好者向け「効果的なトレーニング」
現状では、体力や体型も違う20代~80代の男女が同じ内容のレッスンに参加しているので、ダンスやエアロビクスでは接触や転倒の危険性もはらんでいます。
通常のレッスンに加え、スタジオでのオンラインレッスンで年代別レッスンを実施すれば、同世代同士一体感を味わうことができ大いに盛り上がるはずです。
- 70代女性向け「買い物対策。重い荷物に負けない筋トレ」
- 80代向け「つまずかない歩き方講座」
【その⑤】新しいターゲットへのオンラインレッスン実施
「キッズスクール会員の親子に」「親子一緒に楽しめるレッスンを」「オンラインで」
自宅で楽しめるオンラインレッスンは大人向けのみの提供であるため、新たなターゲットとして・親子一緒に楽しめるプログラムを提供
・ママと一緒に挑戦するストレッチ
・子どもを重りにしたパパ向けトレーニング
【その⑥】膨大な情報・ノウハウを生かした伴奏型支援
「会員全般に」「トレーニング・栄養補給指導を」「体成分分析装置を使って」
体成分分析装置による測定を促し(データの可視化)、過去に測定した同世代のデータを参考に理想的または会員の希望するスタイルに向けてのトレーニング・栄養補給指導を行うことで、クラブへの定着率が高まるはずです。
大手クラブは幅広い年齢層をターゲットに運営をしています。その中でも②④⑥で提案したように、経済的余裕、時間的余裕のある(金時持ち(きんときもち))のシニア世代をコアターゲットに、身体的健康と人とのつながりがもたらす「生きがい」に寄り添うこと、また会員の多様性に合わせ様々な需要に応えるキメの細かい対応が今後の大手クラブには求められているのだと思います。
(中小企業診断士:平野邦久)