為替の基本
テレビのニュースや新聞紙上でよく目にする為替。
海外旅行の際にはとりわけ気になる為替ですが、私たちの暮らしや企業活動とも密接に関わっています。
かつて日本円は、各国政府間で為替レートを固定・維持する固定相場制であったため1ドル=360円でした。
為替レートを、外国為替市場における外貨の需要と供給の関係にまかせて自由に決める変動相場制に移行したのは1973年のことです。
為替レートは外国通貨と円の交換比率を示すもので日々刻々と変化します。
その最も代表的なものがドル・円レートで、例えば1ドル=100円といった形で表します。
円の金額が1ドル=90円などと比較時点の100円より安くなることを円高といいます。
1ドルと交換するために100円必要だったのが90円で済むことになり、ドルに対して円の価値が高くなったからです。
反対に、1ドル=110円などと比較時点の100円より高くなることを円安といいます。1ドルと交換するために100円で済んでいたのが110円必要になってしまい、ドルに対して円の価値が低くなったからです。
新型コロナウイルスの感染拡大による混乱では、対ドルで円高になったかと思えば、反対にドル高(円安)が一気に進む場面もありました。
いったい通貨の交換レートである為替はどういった要因で動くのでしょうか。
為替の基本をやさしく解説します。
不安心理による変動
コロナに端を発した混乱では、為替は円高に動いたり、円安に動いたりしました。
急な円高が進んだのは3月上旬でした。
米国で新型コロナウイルスの感染者が急増し、米経済への悪影響が意識されるようになるとドルを売って円を買う動きが強まり、円相場は3月9日に1ドル=101円台まで上昇したのです。
その後、各国で外出制限が実施され極度の不安心理が働いたため、金融機関や企業が国際決済通貨であるドルを手元に確保したいという理由から、円を売ってドルを買う動きが強まり3月24日には1ドル=111円台まで円安に振れました。
このように、予期せぬ疫病や自然災害が起きると為替相場は大きく動くことになります。
2011年の東日本大震災の後には歴史的な円高が進み、1ドル=75円台をつけました。
1つの理由として挙げられているのが、契約者に保険料を支払うために多額の現金を円で用意しなくてはならない生命保険会社や損害保険会社が、運用している海外の株式や債券を売却して円に交換するとの見方が強まったことです。
このように円の需要が高まることで円高になることが見込まれると、(円高=ドル安のため)ドルを所有している人が自身の資産が目減りするのを恐れて、ドルを円に交換しさらに円高が進むことになります。
正月休みやGWや夏休みなど多くの人が利用する期間の旅行代金が高くなるのと同じように、円やドルも必要とする人が多くなればなるほど高くなると考えればわかりやすいかもしれません。
円高の流れが変わったのは、安倍内閣による経済政策「アベノミクス」が始動した前後です。
学校・図書館・公園・病院の建設、道路・港湾・上下水道の整備、河川の改修といった公共事業に税金や国債などの資金を投資することで国内総生産(GDP)や民間消費などの増加促進から景気の安定・底上げを図りました(財政政策※注1)。
また、2013年4月に実施した日銀による異次元の金融緩和(金融政策※注2)で円安が進みました。
日本銀行※注3が民間銀行から国債を買う量的緩和を行うと、市場には円がより多く流通するようになります。円の需要は急には変わらず供給量だけが増えるので、円の価値が下がり円安になったのです。
ところが、2016年2月に日本銀行がマイナス金利政策を始めると、逆に円高になりました。
マイナス金利政策とは、金融機関が日本銀行に預ける当座預金に対し、一部マイナスの金利を適用する政策のことです。金融機関が日本銀行に預けていたお金を市場に出回るように促すことで、経済の活性化、景気の上向きを期待したものです。
円の供給量が増えるわけですから円の価値が下がり円安に進んでもよさそうなものです。ところが、銀行の収益が悪化するとの懸念から株価が下がり「株安・円高」がしばらく続きました。
このように、金融緩和があっても、円売り(円安)にならないこともある点が為替の難しさかもしれません。
「実需」と「投機」
「実需」とは為替取引を行う企業などの取引です。
商社や自動車のようなグローバル企業は、海外企業と決済する際にドルなどの外国通貨を使います。
海外企業を買収する際もドルが必要になるため、大型M&Aの発表直後にはドル買いが増える傾向があります。
日本の経済は輸出企業が支えている場合が多いので、円高になると(ドルベースでは値上がりとなり)競争力が低下し、輸出企業は利益を出しづらくなります。結果、不景気になり株式市場も下落する傾向があります。
円高による不況を「円高不況」といいます。
その一方で輸入品が安く購入でき、海外企業の買収を有利にできるといった側面もあります。
為替を「投機」対象にするヘッジファンドや個人投資家は金利差に注目するので、金利の低い円よりも豪ドルやトルコリラといった高金利通貨が人気を集めています。
普段あまり為替を気にしない方も多いと思いますが、為替が動く要因を知ることは資産運用に役立ちますし、為替を通して経済や企業を深く知るきっかけにもなるのではないでしょうか。
※注1 財政政策とは、歳入面で増税(または減税)や国債発行の増減によって国民の稼ぎを調整し、歳出面で公共事業の拡大(または縮小)を行うこと雇用の増減を調整することで国民の稼ぎを調整することで、景気の拡大や抑制を図るものです。
※注2 金融政策とは、モノやサービスなどの価格の安定と信用秩序の維持のために行う経済政策のことです。民間銀行が中央銀行から借りるお金の金利を調節したり、民間銀行が国民に課せるお金の量を調節したりして、通貨や金融の調整を行うのです。
なぜ、金融政策による金利の低下が景気底上げに繋がるのでしょうか。
金利が下がると金融機関は低い金利で資金を調達できるので、企業や個人への貸し出しにおいても、金利を引き下げることができるようになります。すると、企業は運転資金や設備資金を調達しやすくなります。また、個人も住宅や自動車の購入のための資金を調達しやすくなります。こうしたことで経済活動がより活発になり、それが景気を上向かせる方向に作用することになるのです。
※注3 中央銀行とは、ひとつの国や国家連合など、同じ通貨を使用している地域の金融組織の中核となる銀行や機関のことです。物価の安定と金融システムの安定が責務で、銀行の銀行としての市中銀行への資金供給、政府の銀行としての財政資金の収支、銀行券の発行など金融機関としての機能と、これらを通じた金融調整を行うなどの金融政策の運営を担っています。また、金融に関しては独自の判断をするという位置づけのため、政府からは独立しています。日本の中央銀行は日本銀行です。