箱根駅伝 全国に門戸
お正月の風物詩「東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝)」は、東京・読売新聞社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(107.5Km)、復路5区間(109.6Km)の合計10区間(217.1Km)で競う、学生長距離界最長の駅伝競走で、 毎回テレビの視聴率は30%前後と、五輪やワールドカップクラスの高さを誇るスポーツコンテンツです。
先日、関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)から、2023年秋に開催される第100回箱根駅伝予選会の参加資格がこれまでの「関東学連男子登録者」から「日本学生陸上競技連合男子登録者」へ拡大されることが発表されました。
全国区でありながら、事実上の「関東大会」であった箱根駅伝の予選会に全国の大学が参加可能となり、突破すれば関東勢以外の大学でも2024年1月2、3日の新春の晴れ舞台に出場できるようになりました。
予選の方法はこれまで通り、一斉スタートのハーフマラソンに各校12名以内が出場し、上位10人の合計タイムで争います。
通常、箱根駅伝には前回大会の総合成績上位10校と、予選会を通過した10校に、予選会で敗退した大学の選手で構成されるオープン参加の関東学生連合を加えた計21チームが参加します。
現時点で100回大会の出場枠は発表されていませんが、過去3回の記念大会(85回、90回、95回)では、出場チーム枠が23に広げられていること、100回大会では関東学生連合が編成されないことから、予選会上位の13校程度が箱根切符獲得となるはずです。
名実ともに全国区となる箱根駅伝。
その出場を目指す各大学の心中はいかがなものでしょうか。
毎年、世間の注目を集め巨額の経済効果を誇る箱根駅伝は、ブランドイメージやカレッジアイデンティティ(大学に対する帰属意識)の向上を図りたい大学にとっては最高の機会。そんな箱根駅伝だからこそ、全国化に対して各大学様々な思惑があるはずです。
本コラムでは、筆者(中小企業診断士)が行動経済学の観点も交え、全国の大学が参加可能となった予選会を解説します。
関東勢以外で100回大会出場を果たすのは?
関東勢以外で100回大会の予選会突破を果たす大学は現れるのでしょうか。
昨年の全日本大学駅伝16位の関西学院大学、17位の皇学館大学、18位の立命館大学などが有力候補となりそうです。
しかし、昨年の同駅伝では出場15校の関東勢が15位までを占めており、関東勢とその他の地区の大学とは力の差が大きいと言わざるを得ません。
また、「箱根を走りたいから関東の大学に進学する」というこれまでの構図から、100回大会で主力となる現3年生、2年生の有力ランナーはすでに関東の大学に進学してしまっており、関東勢以外の大学は新戦力の獲得ではなく現状の戦力の底上げで本大会出場を狙うしかありません。
フレーミング効果
表現の仕方が変わると、印象も変わることを「フレーミング効果」と言います。
前述したように、実力的には
「関東勢以外の大学が箱根駅伝予選を突破する可能性はほとんどない」
かもしれません。しかし、この表現を
「関東勢以外の大学が箱根駅伝予選を突破する可能性はゼロではない」
と言い換えれば、言っていることはほぼ同じなのに、全国から箱根駅伝に出場する大学が現れる期待が持てるような気がします。
サンクコスト効果
立教大学の「立教箱根駅伝2024事業」や、芝浦工業大学の「駅伝プロジェクト」など、本選出場を目標に掲げて取り組んでいる大学が多数あります。
「サンクコスト効果」とは「せっかく始めたからには続けないと損をする」という考え方です。
また、継続してチャレンジし続けることでその現状を維持し続けたくなる性質が人間にはあります(現状維持バイアス)。
これらの要因によって、これらの大学は成果が出るまで取り組みを続けることでしょう。
損失回避性(プロスペクト理論)
人間は「損失回避」と呼ばれる行動を選択しがちです。
何かを得るために何かを失うリスクよりも、何も失わない代わりに何も得ない方を選ぶ傾向があります。
箱根駅伝予選会の2~3週間後には、地方の有力大学にとって最大の目標となる全日本大学駅伝が控えています。予選会に参加した後、短期間での同駅伝への出場はピーキング(試合で最高のパフォーマンスを発揮するために、練習などでコンディションを調整していくこと)が非常に難しくなります。
よって、同駅伝で最高のパフォーマンスを発揮するために「損失回避」の観点から予選会には出場しないという選択をする地方大学も多いかもしれません。
101回大会以降は?
現段階で101回大会以降は未定です。もし一度きりではなく、101回大会以降も永続的に全国から予選会に出場ができるのであれば、地方大学のモチベーションアップやレベルアップに繋がり、地方から本気で箱根駅伝優勝を目指すチームが現れるかもしれません。
そうすれば、現在の関東一極集中の構図が変わる時が来るのではないでしょうか。少し時間はかかるかもしれませんが、新たな時代の到来を期待せずにはいられません。
参考資料
- 7月2日付 スポーツニッポン
- サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」著:阿部誠 新星出版社